新聞社が取り組む昆虫食-昆虫みらいプロジェクトのこれまでとこれから-

新聞社と昆虫食というと、一見どういった関係があるのだろうと考える方もいらっしゃるかもしれません。

長野県にある信濃毎日新聞社では、2022年から昆虫みらいプロジェクトということで、昆虫食の商品開発や普及のための活動に取り組まれています。

今回は、

信濃毎日新聞社 ビジネス開発局 ビジネス開発部 部次長
白井 政孝さま

信濃毎日新聞社 ビジネス開発局ビジネス開発部兼デジタル編集部
小内(おない) 翔一さま

にこれまでの取り組みと今後の展望についてお伺いしました。

長野県の郷土食としての位置づけ、また今後インバウンド向けの事業展開といった可能性についてもご紹介いただきました。

昆虫みらいプロジェクトがスタートするきっかけ

河東
本日は、お忙しいところ、どうもありがとうございます。まずは、お二方についてお知らせください。
白井様
私たちは、2024年4月に全く他部署からの今のビジネス開発部に異動をしてきました。
私は3月まで新聞販売店の担当者でした。
小内様
私は新聞記者でした。
河東
御社が昆虫みらいプロジェクトに取り組むきっかけというのはどういうものだったのでしょうか。
白井様
2020年頃から、新聞の収入が減少する中で、新しい収益の柱を作るという観点でビジネス開発部の前身となるビジネス開発室が立ち上がりました。

長野県の新聞社として、新聞社ならではの新しい事業を行おうという考えのもと、昆虫食に注目しました。

将来的には昆虫食の原材料供給までを見据えたもので、食品販売と昆虫食のPRからスタートしたものになります。

河東
具体的に動き出したのはいつ頃だったのでしょうか。
白井様
2021年に長野県白馬村出身で軽井沢でレストランをしている太田哲雄シェフに一緒に昆虫食をやりませんかということでお声掛けさせていただきました。

昆虫食は長野県で盛んに食べられてきたということ、郷土食の一つとして地元新聞社がやる意義があるのではないかということでご賛同いただけたのではないかと考えています。

美食としての昆虫食を開発しようというコンセプトで取り組んでいます。

商品開発とその反響:製造よりも売れるかが不安

河東
それから、商品の販売になってくるのですね。
白井様
2022年4月に「AMAZONCACAO×INSECTタブレットチョコレート 蝗(いなご)―イナゴ―」(税込み2000円)(販売終了)の販売をスタートしました。

高価格帯ではありましたが、インターネットなどで当初はかなりの数が販売できたので、当時の担当者はいけると思ったという話を聞きました。

河東
その後にすぐCOCON MIRAIもオープンされますね。
白井様
太田哲雄シェフが軽井沢にMADRE/マードレをオープンするということで、その一部を間借りする形でスタートしています。

当初はレストランで昆虫食メニューも提供していました。今でも昆虫食のお菓子を販売しています。

河東
どういったお菓子が人気ですか?
白井様
クッキー系ですね。フィナンシェは賞味期限が短いので、最近は出していないです。
伊藤
賞味期限が短いというのは昆虫食での課題の一つですよね。
白井様
実は、それもあって、2023年の8月から信州ミライカレーというカイコと鹿肉を使ったカレーを、2024年4月からは長野県産カイコ入りポップコーン「飛んで火に炒る夏の虫」の販売をスタートしました。どちらも賞味期限は1年ほどになります。
河東
販売の状況はいかがですか?
白井様
おかげさまで、カレーは初期に注文したものは1700パックは完売しました。

ポップコーンもすでに900個ほどをお求めいただいています。

伊藤
新たな商品を作る際には、協力してくれる工場を探すのが大変ということを伺っていたのですが、いかがでしょうか。
白井様

カレーについては長野県内で見つかりました。
ポップコーンについては、神奈川県の有限会社クローバーさんというスーパーで見かける銀色のフライパン型ポップコーンを作る会社にご協力いただくことができました。

伊藤
なかなか厳しい反応になるかと思っていたのですが、うれしいですね。
白井様
そういう点では、本当に売れるのかという不安が一番の課題でした。
工場の方々からも売れるのか心配されました。
実際、こんなに売れるとは思わなかったというお声をいただいています。
河東
実際にはどういったところで販売されているのでしょうか。
白井様
長野県内では35か所で販売しています。お土産屋さん、道の駅などになります。
インターネットでもお求めいただけますが、店舗の方が多いですね。
河東
どういった方々が購入されるのでしょうか。
白井様
長野県に来て、お土産にという方が多いようです。
珍しいお土産ということで、面白がって買っていただけているのではないかと考えています。
カイコのさなぎそのものが20匹入っていて、見た目的にはインパクトがあります。
作って食べるものなので、バーベキューやキャンプなどでの体験型的な商品として歓迎されているのではないかと考えています。
河東
もともとのコンセプトの美食としての観点の方ではいかがでしょうか。
白井様
実は、太田哲雄シェフが作られるお菓子は非常においしいので、クッキーになぜ昆虫を入れるのといった声もあります。おいしさでも、値段でも昆虫を入れない方が良いのではないか、独りよがりになっているのではないかという部分も指摘を受けることがあります。
伊藤
なかなか難しいですね。しっかり考えなどをお伝えできると違うのかもしれませんが。
白井様
製品のできたストーリーやどこでとれた昆虫なのか、どういった特徴があるのかといったことが伝わると変わるかとは思います。
あとは、これは昆虫食に限らずですが、どういったタイミングで食べるのかということがわかると良いというのもありますね。

長野県の郷土食としてのポジションニング確立に向けて

河東
今後の展望としてはいかがでしょうか。
白井様

立ち上げ当初から考えると、その後の世の中の流れが想定よりも厳しくなったこともあり、当初のスタート段階のフェーズで今は止まっています。

昆虫食自体は今の商品ラインナップを維持しつつ、長野県の新聞社として一つの郷土食のカテゴリーとして残したいと考えています。

実は、現在、昆虫食以外の食品も太田シェフと開発をしています。

郷土食の食品事業の一つとして昆虫食を位置づけていこうと考えているところです。

河東
企業としてSDGsやESG投資といった観点だから取り組むといった考えもあったのでしょうか。
小内様
SDGsは意識してスタートした事業ではあると思います。一方で、あくまでもビジネスとしての成功を図ることに重きが置かれていたとの認識です。

社内には収益部門以外に地域の文化振興を意識したイベント、事業があるので、そういった昆虫食の文化の振興という部分にも貢献できるというのもあると思います。

河東
やはり昆虫食が普及している長野県だからこそという部分もあるのでしょうか。
白井様
昆虫食に無限の可能性と価値を見出し、昆虫食文化発祥の地から、その意義を国内外に発信する。将来的に昆虫食が信州の新たな産業に育つよう、信州の新聞社だからこそできることがあると考えてスタートしました。

観光庁「地域一体型ガストロノミーツーリズム推進事業」としての展開

河東
今年、2024年はこれからどのような事業を予定されていますか。
白井様
実は、観光庁の地域一体型ガストロノミーツーリズム推進事業の採択を受けました。
岡谷市のシルク、カイコを活用した昆虫食を美食として国内外に発信していく予定です。
河東
それは楽しみですね!ぜひこういった取り組みが広がっていっていただきたいと思います。