昆虫食のための養殖のメリットとデメリット

昆虫食が注目されていますが、日本の伝統的な昆虫食の特徴は、自然にあったものを食べるという文化でした。

たとえば、蜂の子やザザムシ、イナゴというのは、自然にいるものを採集して食べています。

そんなの当たり前ではないかという声が聞こえてきそうですが、実は私たちの食生活を考えると、いわゆる天然物に依存しているというのは危険でもあります。

というのも、天然物は消費が増えると資源が枯渇する恐れがあるからです。

たとえば、魚も最近世界での消費量が増えて、一時期クロマグロが絶滅危惧種にしていされるといったことがありました。

今は昆虫食が普及していないため、そういった昆虫の絶滅の危険性は極めて低いと思われますが、これから普及してくるとなると、生態系の維持を考えた採集が必要になってきます。

今回は、そういった昆虫食の養殖のメリットとデメリットについて考えたいと思います。

日本の昆虫食文化は天然物が基本だった

最初に述べたとおり、日本は伝統的に自然の昆虫を食べる文化で、養殖したものを食べるという習慣はほとんどありませんでした。

イナゴについては、稲作に付随してくるものではありますが、意図的にイナゴを育てているというよりは、稲を育てているところにイナゴも一緒に繁殖していて、イナゴがたくさん発生したので食べてみたという経緯かと思います。

また、蚕も生糸の飼育の過程で育ったものを食べていたということは聞きますが、それは食べたいから育てるというよりは、生糸のために育てていて、食料としてもいけるから食べたといったレベルのものだと思います。

つまり、これまで日本の昆虫食文化としては、昆虫を意図的に育てて食べるという習慣はほとんどなかったことになります。

もちろん、クロスズメバチの蜂の子については、初期段階の蜂の巣を移設して、大きくして、蜂の子を食べるといった習慣はあります。

しかし、それは卵から成虫までの完全養殖ではありません。

これから昆虫食の消費が拡大していくことを考えると、需要に供給が追いつかないということが大いに考えられる状態になっています。

養殖のメリット

安定供給

養殖のメリットとしては、なんと言っても安定供給ができるということではないでしょうか。

育てる量を一定程度確保でき、提供する時期についても予定を組むことができます。

年間を通じて出荷量の大きな増減がなくなれば、必要なところに必要な量を共有し続けることができます。

急に需要が増えたとしても、それに応じて増やすことも可能になります。

そのような点から、乱獲による生態系への影響といったことも防ぐことができます。

価格の低下

温度管理のいらず、土地も労働力が豊富な地域で養殖すれば、それだけ低価格な提供ができるはずです。

今は東南アジアでも養殖が盛んですが、生産コストで考えると、日本での生産コストよりも大幅に安く生産できているのではないでしょうか。

さらに、養殖の技術的な向上が見られれば、オートメーション化して人手が不要になったり、より少ない飼料や土地、水で育てられるようになるかもしれません。

そうすると、さらに低コスト化が進むのではないでしょうか。

品質管理

育てている場所や飼料が特定できるため、品質が一定に保てるということも大きな魅力です。

同じ環境で育てると、味や大きなも一定のものになりやすく、個体による差がなくなると、食べる側としても安心して食べることができます。

トレーサビリティーの観点から、万が一なにか問題が発生しても原因を究明しやすいといった部分もあります。

また、品種改良を行って、よりおいしい品種に育てていくということもできやすくなります。

養殖のデメリット

脱走による生態系への影響

養殖をしていると、必ずそこから脱走する昆虫が出てきます。

そういった時に、その脱走した昆虫が生態系に影響を及ぼす可能性があります。

今日本で養殖されている昆虫はコオロギ、蚕などがありますが、コオロギもエンマコオロギやフタホシコオロギは日本の在来種ですが、ヨーロッパイエコオロギやジャマイカンコオロギは外来種です。

フタホシコオロギもトカラ列島、奄美大島 、沖縄及び先島諸島といった亜熱帯地域に生息しているコオロギです。

そのため、養殖はヨーロッパイエコオロギやフタホシコオロギがされることが多いですが、これらが脱走した時に日本の従来の生態系に影響がゼロかというと、そうとは言い切れません。

寒い本州の気候の中で生きていけないといった環境があるため、万が一脱走しても大きな影響はないかもしれませんが、こういったリスクがあるということは認識しておく必要があると思います。

今後、品種改良が行われて、寒さに強いコオロギが開発されてくると、こういった問題というのはさらに顕著になってくるのではないでしょうか。

生産増による環境への影響

昆虫食ニーズが高まると、生産量も増えます。

そうすると、自然と飼育する量も増えてくることになります。

そもそも昆虫食が注目されているのは、牛、豚、鳥といった養殖に対して、必要となる土地、飼料、水が少ないからという理由です。

そのため、昆虫食の生産が増えても、牛などの飼育を増やすよりもずっと良いのではないかと思われます。

食品及び飼料における昆虫類の役割に注目する報告書とは何か

ただ、これは日本での製造を想定していないため、日本で養殖を行う際には、これ以外に必要なコストが出てきます。

それは、エネルギー問題です。

コオロギの養殖には20度から25度の温度が適していると言われています。

しかし、日本は四季があるため、年間を通してこの気温を保つことができません。

そのため、冬には暖房を使うことになります。

東南アジアなどであれば、暖房の必要はありませんが、日本ではそういったコストが追加されてくることになります。

では、東南アジアで育てられた昆虫を輸入すれば良いかというと、輸入にも輸送コストがかかることになり、どちらが良いのかというのは別途検証が必要です。

新たな病気の発生するリスク

もう1つ気になるのが、養殖による昆虫の病気の発生です。

昔から蚕の養殖でも核多角体病と呼ばれる病気が発生して、蚕が大量死することがありました。

もちろん、これを克服するための取り組みも行われるわけですが、同じことがコオロギなど他の昆虫についても起こると思います。

それが人体に影響があるかどうかはわかりませんが、そういったリスクも出てきます。

また、餌の品質管理も必要で、コオロギのように雑食性のものは何でも餌になる一方で、何でも食べさせて良いかというと、食品添加物が入ったものを与えるとそれを食べる人にも蓄積していくことになるため、注意が必要です。

これは、まだ昆虫の養殖に関する基準がしっかりと定められていないから生じることなので、今後安全性を担保するためのルールが定められていくことになると思います。

昆虫養殖業の将来

これまで昆虫の養殖という観点でメリットとデメリットを見てきましたが、これは稲作などの植物の栽培、魚や牛などの飼育といった食料生産に関して同様に起きていることです。

実は、昆虫もこれまで養殖をしてきた歴史はあります。

しかし、それは人が食べる用ではなく、観賞用やペット用のものでした。

人が食べることを想定すると、生産量が激増することが想定され、そのため、いろいろな部分に影響が出てくることが考えられます。

もちろん、それによる良い部分もありますが、気をつけなくては行けない部分もあるということをしっかりと認識しながら取り組んでいくことが大切ではないでしょうか。

近年昆虫食が大いに注目されていて、新たに養殖を始める企業も増えてきました。

今後はコオロギだけでなく、蚕、イエバエ、アメリカミズアブ、ミールワームなども増えてくると思います。

チャンスは大いに活かし、リスクは最小限にということで取り組みが進められていくと良いですね。

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