SDGsの関係などで、昆虫食が注目されていますが、ビジネスとして始めるには、どうなのでしょうか。
実は、昆虫といっても、すべての昆虫が食用として好まれているわけではありません。
売れる昆虫と売れない昆虫がありますし、美味しい昆虫もあれば、おいしくない昆虫もあります。
そして、ビジネスとして大切なのが、養殖しやすいかということです。
持続性を考えても天然物を採取するには限界がありますし、大量生産をするには養殖は必須です。
今回は、養殖がされている昆虫5種類に注目して、それぞれどういった特徴があるかをまとめました。
もくじ
コオロギ
育てやすさ
まずはコオロギの育て方、育てやすさについて見ていきます。
コオロギの養殖方法として衛生的に育てるため、土に触れずに飼育できるように合板製の木箱、コンクリート製のゲージ、プラスチック製のコンテナなどを使用してコオロギを飼育する方法が一般的です。
飼育ケースの中に紙製の卵カートンを縦に重ね置きし、1つの空間を多数の小部屋に分割して飼育することで非常にたくさんのコオロギを集密的に飼育することができます。
これはコオロギの狭い場所を好むという習性を利用したものです。
排出したフンは飼育ケースの底に落ちるため、清潔な状態を保つことができるようになっています。
しかし、跳ねたり、定期的な水やりと餌やり、産卵後は産卵床を別のケースで飼育する必要があるため、少し手間がかかります。
コスト
次にコストについて見てみます。
先に述べた通り、ゲージやコンテナで飼育が可能なため、比較的スペースも少なく、費用もかからないように感じます。
またコオロギは雑食であるため、食品ロスを餌に利用することができます。
そのため食品ロスを減らしながらタンパク質原料を生産することが可能です。
またコオロギのフンは肥料として利用でき、その肥料を使ってできた野菜をコオロギの餌として使用し、そのコオロギを使ってパンやお菓子ができ、そのパンやお菓子の食品ロスをコオロギの餌として使うという循環も作ることができます。
ただ、ここで注意しなくてはいけないのは、光熱水費です。
コオロギは温かい気温を好むため、冬も一定程度の温度を保つ必要があります。
保温用の費用がかかるということに注意が必要です。
ミルワーム
育てやすさ
ミルワームは国内では主にペットの餌用として利用されています。
このミルワームは料理する際に出た野菜などの生ゴミを入れっぱなしにするだけで育てることができます。
また飛んだりすることもなく、ペットを飼っている方が家で繁殖させることができるほど飼育が簡単であるため、かなり育てやすい昆虫だと言えます。
プラスチックを食べるということも言われていて、その点でも注目です。
コスト
コストの面で見ると、家でもできるような設備とスペースで繁殖できます。
餌に関しても栄養価にこだわって飼育すると少しコストがかかるが、コオロギ同様食品ロスを餌にできるため、コストを抑えることも可能です。
これらを踏まえると、食用としてまだ日本では普及していませんが、コストパフォーマンスを考えてもかなり優秀な食材になりうると感じました。
イエバエ
育てやすさ
育てやすさの面を見てみます。
イエバエは日常的にいる通り、雑食であるため餌の入れ替え、水は不要です。
この点だけを見ると育てやすいと感じるかもしれませんが、成虫は飛びます。
この点から養殖には少し向いていないように感じました。
コスト
コスト面では、上でも書いた通り飛び回る為、スペースを取ってしまうことが難点です。
しかし、悪いことばかりではありません。
イエバエの循環システムというものが考えられています。
これは品種改良を重ねられたイエバエが、いままで堆肥となるまで数ヶ月かかっていた家畜糞尿を一週間で肥料と飼料にし、飼料となるイエバエの幼虫は畜産や養殖用の魚粉代替品としての活用が期待されています。
このようにハエをそのまま食べるというのではなく、肥料や飼料として活用されることの方が先になりそうです。
蚕
育てやすさ
蚕は5000年前から養殖されてきた、養殖に適した昆虫です。
そのため、江戸時代に蚕のさなぎが食べられたというデータが残っているように比較的育てやすい昆虫のように感じました。
しかし餌として桑を与える必要がありますが、新鮮なものが好ましいため、新鮮な桑の葉を手に入れにくい地域では少し手間がかかってしまうかもしれません。
戦前までは日本の主力産業だった繊維産業ですが、戦後に業態転換が進む中で桑の葉の生産量も減ってきました。
かつての伝統を守っている地域では参入の余地がありそうです。
コスト
スペースに関しては、飛ぶことができないため小さなスペースでも育てることが可能です。
しかし餌の面でのコストが懸念点です。
主に蚕は新鮮な桑を餌にして育ちます。
カイコは生涯で約100gの桑の葉を食べて育ちますが、1~3齢で3%、4齢で9%、5齢で88%と大きくなるにつれて多くの餌が必要となります。
この餌の問題を解決するために人工飼料が開発されました。
桑の葉であれば1日2回は餌を与える必要がありましたが、人工飼料であれば1~2齢の間は全体で2~3回のみで済むため、労力は大幅に削減でき、病気の防除にも役に立っています。
ただ、この人工飼料はコストが高いため、早い段階の蚕にしか与えることができず、この後の養蚕の衰退をもたらしています。
このことから食用として蚕を養殖することはまだ厳しいかもしれません。
セミ
育てやすさ
セミは中国では毎年6月から7月にかけて市場に出回っており、江蘇省徐州市はセミの養殖で有名で地元のセミ養殖協同組合がセミの卵を年間2000万匹近く販売しています。
中国のセミ養殖協同組合の孵化室に入ると、セミの卵を産みつけられた枝が整然と積まれており、竹ざおで鉄枠の黒い布をたたくと、枝からセミの幼虫が落ちてきて白いプラスチックのカゴに集めていきます。
その後、集められたセミの幼虫はふるいにかけられて木くずやクモなどの不純物を取り除き、電子計量器で計ってから出荷用の箱に均等に入れていきます。
セミはヤナギやポプラ、ニレ、リンゴの枝で養殖し、早ければ2年で収穫できるとされています。
このように幼虫は中国で行われているように養殖ができるかもしれませんが、成虫は養殖が難しそうだと感じました。
コスト
セミを養殖する上でのコストについて見てみます。
セミの幼虫ははどの木でも樹液を吸えたら良いというわけでもなく、セミによってそれぞれ好みがあります。
●アブラゼミ…サクラ、ケヤキ、モミ、成虫はサクラ、ナシ、リンゴなどバラ科樹
●クマゼミ…サクラ、ケヤキ、センダン、ホルトノキ、キンモクセイ
●ミンミンゼミ…サクラ、モミ、ケヤキ
●ニイニイゼミ…サクラ、ケヤキ、エノキ、マツ、モミ
●ツクツクボウシ…アカメガシワ、モミ
●ハルゼミ…ヒマラヤスギ、アカマツやクロマツなどのマツ林
このように好みが分かれているため、セミにストレスを与えず育てようとすると少しコストがかかりそうだなという印象を受けました。
まとめ
5種類の昆虫の養殖について見てみましたが、それぞれの長所と短所、また参入企業についてまとめてみました。
長所 | 短所 | 参入企業 | |
コオロギ | ・飼育ケースにより、清潔に保ちやすい ・コスト、スペースともに少なく済む ・食品ロスを餌にできる | ・定期的な水と餌やりが必要 ・跳ねる
| 日本国内でも多く見られる |
ミルワーム | ・飛ばないので飼育しやすい ・少ないスペースで繁殖可能 ・夏に育てると成長が早い | ・栄養価にこだわって飼育するとなると餌代が高くなる ・冬は繁殖不可(通常20度以上必要) | 主に養殖用飼料として飼育しているところはあるが、食用の会社は少なめ |
ハエ | ・雑食のため、餌の入れ替えや水が不要である ・25度で育てると10日弱で成虫になる | ・成虫になると飛ぶため、飼育が困難 | 数社存在。イエバエを養殖飼料にするという取り組みがされている |
蚕 | ・飛ばないので飼育しやすい ・スペースが少なく飼育できる | ・餌として新鮮な桑の葉が必要となる ・大きくなるにつれて餌の量が増え、さらに餌も高価であるためコストがかかる | シルクを作るために養殖されている会社が多く見られる。しかし、食用向けの会社もいくつか確認できた。 |
セミ | ・中国で行われているセミ養殖は簡単なように感じる
| ・成虫には種により木の好みがあるため、どんな木でもよいとは限らない ・夏でしか養殖できない(25度以上) | 圧倒的に国内で養殖している会社が少なく、中国で養殖されているという記事が見られた |
おすすめランキング
私自身が5種類の昆虫養殖について調べてみて、どの昆虫がこれから養殖を考えている人に対しておすすめなのか順位をつけてみました。
1位 ミルワーム
ミルワームに関しては食用として養殖している企業がまだあまりなく、競合が少ないんです。
また飼育面で見てもペット用として自宅で繁殖させている人がいるほど簡単で、少ないスペースでの飼育も可能です。
そのため、一番参入のリスクが小さいと感じたため、1位に選びました。
2位 蚕
蚕は昔から食用として食べられていたこともあり、昆虫食の中では抵抗感が少ないと思います。
また食用として養殖している企業は少ないため、2位に選びました。
3位 セミ
セミについては日本で養殖している企業が見当たらなかったため、競合が少ないと感じました。
しかし逆に日本での事例がないため、1から始める必要があるため、参入リスクは少し大きいように感じたため、3位に選びました。
4位 ハエ
ハエの養殖をしている企業は少ないように感じたため、競争率は低いと感じました。
ただ、一方で養殖のための研究が必要だと思います。
そのため参入リスクも大きく、期間もかなりの時間を要すると予想できるため、4位に選びました。
5位 コオロギ
コオロギの養殖をしている企業は日本国内だけでも多く見られるため、飼育面での情報は多く出回っている。
しかし、参入企業が多いため、競争が激しいことが予想されます。
そのため、いまから新しくコオロギ養殖業を始めても、すでに始めている企業には勝てないと思うので、5位に選びました。
昆虫の養殖業を調べて感じたことは、昆虫の種類によって参入企業の差が激しいことを感じました。
そして、コオロギのような参入企業の多い昆虫の方が商品として出回っている物が多いことにも気がつきました。
インターン生 稲見 拓磨
参考サイト
https://news.yahoo.co.jp/articles/76ea2c1937ababd593445f3f6148ce81325a0776
https://foodtech-evolve.jp/business-contest/report/25
https://kyodonewsprwire.jp/release/201712139032