サクラ、モモ、ウメなどのバラ科樹木を好む特定外来種のクビアカツヤカミキリの被害が拡大しています。
日本の生態系を脅かす存在となっているクビアカツヤカミキリの実態と駆除方法について、栃木県内の自治体のクビアカツヤカミキリの担当部署の方々にご協力をいただき、検証しました。
もくじ
クビアカツヤカミキリとは
コウチュウ目ハムシ上科カミキリムシ科ジャコウカミキリ属で、学名はAromia bungii (アロミア・ブンギ)といいます。
成虫は全長2〜4センチ程度で、全体的に黒い昆虫ですが、首に当たる部分が赤くなっているのが「クビアカ(首赤)」と言われる由来です。
クロジャコウカミキリとも呼ばれ、成虫はディル(イノンド)というハーブと同じような匂いがします。
もともとは、中国、モンゴル、朝鮮半島、ベトナムなどに生息している昆虫です。
それが日本で2012年に愛知県で発見されて以来、北関東や大阪、徳島と関西、四国にまで広がっています。
8キロぐらい飛ぶことも可能だと言われており、かなり活動範囲は広いようです。
幼虫が入っていた海外の木材が輸入され、それが日本で成虫になって、繁殖したと考えられています。
なぜ特定外来生物に指定されているの?懸賞金が出る自治体も!
2018年1月に特定外来生物に指定されたため、飼育はもちろん、生きたままの持ち運びなどは原則禁止されています。
なぜ特定外来生物に指定されているかというと、幼虫がサクラ、モモ、スモモ、ウメなどのバラ科を中心とした樹木内を食い荒らして枯死させてしまうです。
そうすると、樹木が道路などに倒れてくるといったことも出てきます。
そういった危険性があることと、サクラなどの木が減ってしまうということで、「日本のサクラが危ない」という表現で発見された地域の自治体では注意喚起を行っています。
中には、クビアカツヤカミキリを捕まえて駆除したら防除奨励金、捕殺報奨金、駆除奨励品、まち元気商品券といったものを配布する自治体もあります。(栃木県小山市、群馬県館林市、群馬県明和町、埼玉県熊谷市、埼玉県行田市)
1匹あたり50円で、10匹もしくは20匹以上捕獲した場合ということが多いようです。
日本では戦前、コレラが流行ったときにハエなどを捕まえるとお金がもらえた時代がありましたが、その時と同じような政策が行われているんですね。
クビアカツヤカミキリの見つけ方と駆除方法
幼虫の見つけ方と駆除方法
クビアカツヤカミキリは、幹や樹皮の割れ目に産卵し、幼虫になると、木の中に入って2~3年を過ごします。
幼虫は春から秋にかけて樹木内部を食べて過ごすため、そのときにフラスという木のクズと幼虫のフンが混じったものが木の外に排出されます。
そのため、幼虫はその木くずがある木にいることがわかります。
特に色が明るいものは新しいフラスなので、幼虫が中にいる可能性が高いです。
ただ、樹木の中にいるため、樹木を削って出すしかないため、街路樹や公園の木は傷つけられないので、取り出すことができません。(今回は許可を得て実施しています。)
そこで、一般的には木の穴に針金を入れて幼虫を刺殺したり、薬剤を入れるといったことで駆除します。
サクラの木は太くなった老木の方が外側の皮がやわらかくなるため、侵食されやすいようです。
モモの場合は細い木でも固くないため侵食されやすいようです。
成虫の見つけ方と駆除方法
幼虫は木の中でサナギになって、その後、成虫として羽化するときに木の外に出ます。
それが、5月下旬から8月頃になります。
特に6月下旬頃がピークになると言うことです。
フラスの被害があるサクラ、モモ、ウメなどのバラ科の樹木を見てみると、成虫も発見できるかと思います。
触角が長いものがオス、短いものがメスになります。
メスは交尾後、産卵するのですが、平均で350個、多い場合は1000個以上産みます。
そして、その卵は8〜9日後に孵化して、幼虫になって木の中に入っていく形になります。
幼虫で捕獲すること、成虫になってすぐに捕獲することが非常に大切になります。
駆除方法としては、その場で踏み潰したり、薬剤を吹き付ける駆除を行うのが一般的です。
成虫を駆除すると、明らかにその後の被害が減るということなので、しっかりと発見して駆除することが非常に重要です。
クビアカツヤカミキリの被害拡大を防ぐための方策
これまで各自治体ではクビアカツヤカミキリの被害拡大を防ぐために、主に5つの手法を取ってきました。
- 市民への啓発を行い認知度を高め早期発見
- 登録薬剤による幼虫の駆除
- 拡散と産卵防止のための樹木へのネット巻
- 懸賞金等による成虫発見後の駆除
- 被害を受けた樹木の伐採処分(焼却もしくはチップ化)
しかし、まだまだクビアカツヤカミキリの認知度自体が低く、まだまだ発見の目が届く範囲は狭い状況です。
また、懸賞金にはお金がかかるため、限界があります。
一方で、昆虫食に関心のある方はお気づきになられたのではないでしょうか。
カミキリムシの幼虫は昆虫食界のマグロのトロという評価を受けるほど非常においしいということに。
昆虫食として非常に評価の高いカミキリムシの幼虫が食べられるとなったら、多くの人がクビアカツヤカミキリを採集に協力してくれるのではないか。
そんな可能性に期待して、栃木県内の自治体のクビアカツヤカミキリの担当部署の方々にのご協力の下、クビアカツヤカミキリの幼虫の調理と試食の実証実験を行うことができました。
※クビアカツヤカミキリは特定外来生物のため生きたままの持ち運びはできないため、殺処分をしたものを調理しています。また、街路樹を個人が傷つけることはできません。
調理
調理は昆虫料理研究家の内山昭一先生にお願いしました。
昆虫の調理の基本はきれいに洗って、煮沸消毒です。
きれいに洗う
まずはきれいに洗います。
煮沸消毒
沸騰したお湯で2〜3分茹でます。
今回はしゃぶしゃぶのようにはせず、油であげるため、水も切ります。
揚げる
その後、油で揚げます。
今回は素材の味をわかりやすくということで、オリーブオイルにしました。
カリッとなるまで揚げました。
それに塩コショウをして食べてみました。
実食と感想
クビアカツヤカミキリの昆虫食食材としての駆除方法と可能性
今回、特定外来生物ではあるものの、カミキリムシの幼虫を採集して食べるという取り組みを行いました。
そこで見えてきた、特定外来生物の昆虫食食材としての駆除方法と活用の可能性についてまとめたいと思います。
期待できる効果
認知度の向上
- まだまだ馴染みのない昆虫を食べるといったインパクトの大きさ
- カミキリムシの幼虫がおいしいということ
- 特定外来生物の駆除という社会貢献性があるということ
から社会的な反響は一定程度あると考えられ、これまで関心のなかった層にクビアカツヤカミキリのことを認知してもらうきっかけをつくることができます。
交流人口増加と採集コストの低下
こちらは成虫の話になりますが、クビアカツヤカミキリを採集して食べるということをイベント化することで、多くの人が訪れ交流人口が増加するだけでなく、その人々が採集に協力をしてくれるため、採集コストが大きく下がります。
地域の名物としての商品開発
成虫は発生ピーク時には、1時間で100匹も確保できるほど大量に発生すると言います。
そのため、クビアカツヤカミキリを活用した商品開発を行うことで、その地域の名物として活用できる可能性があります。
ふるさと納税で出されれば、地域への貢献ができる商品として大きく注目されるのではないでしょうか。
残された3つの課題
これからいろいろな効果が期待される昆虫食としてのクビアカツヤカミキリの可能性ですが、もちろん課題もあります。
- 幼虫は木を削っての採取になるため、大量採集は難しいこと。
- 特定外来生物であるため、その場で殺処分する必要があり、鮮度を保つことが難しいということ。
- 成虫のおいしさがまだまだ未知数なため、検証が必要な点。
これらの課題の解決をしていく必要があるため、これからも継続して取り組みを行っていきたいと考えています。
2023年6月にはクビアカツヤカミキリの成虫の昆虫食活用の実証実験を行う予定です。
ご関心のある方はセミたま公式LINEをチェックいただければと思います。
この度は、栃木県の自治体のみなさん、雨の中にも関わらず、ご協力ありがとうございました!