昆虫を食べるという話をして、リアクションをしない人はいません。
それだけ、昆虫を食べることは珍しいことになっています。
でも、実は日本では1960年代まで55種類もの昆虫が食べられていたという記録があります。(食用及薬用昆虫に関する調査)
そんな昆虫食の歴史となぜ食べられなくなったのかという原因について解説します。
もくじ
世界の昆虫食の歴史
紀元前3世紀アリストテレス
古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスもセミを食べたようで、特にセミが羽化する前の状態のものが最もおいしいとしています。
また、雄と雌では、出てきた最初の頃は雄の方がおいしいが、交尾後は雌の方が卵を持っているのでおいしいとしています。(参考:動物誌 アリストテレース:著 島崎 三郎:訳 第5巻第30章産卵習性(セミ))
2世紀エチオピアでバッタを食べる
2世紀、ギリシアの歴史家のディオドルスが、エチオピアでは塩漬けにして一年中食べていた。という記述をしています。
バッタを丸ごと食べていたので、足のトゲが腸を傷つけて短命であったということです。
脚や翅は消化しないので、後ろ足にある刺状の突起が胃腸を傷つけて胃腸障害をおこし、暴食した人の中には亡くなった方もいたということです。
1年間保存できるような塩漬けということはかなりの塩の量だと思うので、塩分の取りすぎという線も考えられますね。
もちろん、食べる時には塩は取り除いていたと思いますが。
ファーブルには不評
アリストテレスの記述を見て、ファーブル昆虫記で有名なファーブルさんがセミを食べています。
なんと、ファーブルは昆虫記を書いているにも関わらず、セミの幼虫が出てくる時期を知らなったようで、7月の朝、やけつくような太陽がのぼているときに家族で幼虫を探したようです。
それでも4匹見つけたようで、コップの水の中に幼虫をつけて羽化させないようにしたようです。
水の中で死んでしまったものもいたようですが、どうせ食べるから良いと開き直っています。
食べ方は、オリーブ油に塩をひとつまみ、玉ねぎを少し加えてフライにしたそうです。
食べたみんなの感想は、「これは、たしかに食べられる。」というもので、エビの味がしたということです。
イナゴの串焼きの方が近いかもと言っているので、ファーブルもイナゴも食べたことがあるんですね。
ただ、本人としては、固くてかさかさしていて、うすい皮を噛んでいるような味気ないものだったということで、人に勧めるのはやめることにしたそうです。(ファーブル昆虫記)
なぜ食べられなくなったのか
害虫という概念は最近のもの
実は害虫という概念は、定住型農耕が始まってから誕生したものです。
ただ、近世まで虫は人為の及ばないものとしてとらえられていて、宗教的な行事で対処されていました。
また、豊かな家庭が少なかったため、ゴキブリはコガネムシと言われ、金持ちのところ、食料がたくさんあるところにしかいない虫だったため、殺さないようにしていました。
それが明治以降になって、認識に変化が生じます。
明治時代に総理大臣も務めた松方正義は、「虫のにわかに生じたるにあらず、その実、人の虫を発見したるのみ。」ということを述べています。
つまり、人が害虫だと認識したから、害虫になったのだという意味ですね。
虫が汚くなったのはコレラが原因
虫が汚い、不衛生だという認識が急速に普及したのがコレラの発生です。
コレラはハエが媒介しているということで、ハエを駆除すべきだというキャンペーンが世界中で行われました。
日本では、当時、ハエに賞金が設けられたそうで、そのためハエの盗難も発生したそうです。
そんな徹底したハエ駆除の成果が汚いというイメージになり、虫が汚い、虫が食品につくのは不衛生だという認識になっていったのだと思われます。(害虫の誕生)
おいしく、入手が簡単で安い肉に軍配
それでも生活が豊かでない間は、貴重なたんぱく源として昆虫食は必要とされていました。
それが、経済が発展し、外国から輸入品が安価で入ってくることで、おいしく、安い肉類が入ってくることで、食生活に変化が現れました。
それまでタンパク質を補うという役割で食べられていた昆虫はなくなり、おいしいから食べられる昆虫のみが残っていきます。
そのおいしさについても、多くの人が肉類の方を選択しており、結果として昆虫は惨敗。
懐かしさを覚えて食べる人、興味があって食べてみる人といった一部の人だけが食べられるものになっていきました。
昆虫食が食べられない3つの理由
昆虫食が食べられない理由はいくつか考えられますが、主なものは以下の3点だと思います。
- 見た目が気持ち悪い
- 不衛生なイメージ
- 値段が高い
見た目については、魚やエビなどもよく見ると気持ち悪いというのもあったりします。
ただ、魚やエビは食べる時には基本的に調理をされた状態で出てきます。
たとえば、豚肉や鶏肉も顔の部分が出てきたら気持ち悪いと思いますよね。
昆虫の場合は、大きさが小さいので顔が見えてしまいます。
そのため、自然と気持ち悪いと感じてしまうのだと思います。
今後は、パウダーになったり、エキスとして使われるような形になってくると思われ、そうすることでそのハードルはクリアできると考えています。
不衛生なイメージについては、先に述べた通り、明治以降の政府によるキャンペーンが大きいため、社会的な認知度が向上する中で解消されていく問題かと思います。
3つ目の昆虫食が高いという点については、大量に作られるようになると値段も自然と落ちてきます。
もちろん、そのためには養殖をしたりとしっかりとしたサプライチェーンが構築される必要があるため、もう少し時間はかかるかもしれません。
もちろん最近では手頃な値段で食べられる昆虫食も増えています。
昆虫食ブームが再来
しかし、そのような減少の一途を辿っていた昆虫食ですが、ここ数年では販売が伸びています。
塚原信州珍味さんでは、2020年は爆発的に蜂の子の販売が伸びていて、輸入を考えているということです。
そして、2020年11月現在では仕入れの量に限りがあるため、売り止めしているということでした。
また、蚕のサナギも例年以上に売れているということです。
2020年6月4日には無印良品のコオロギせんべいが販売開始になったように、昆虫食への注目が増えていることが大きいのだと思います。
そして、同じ日に地球を愛し、地球を探究し続けるレストランANTCICADAがオープンしています。
コオロギラーメンや昆虫食を食べられるコース料理など、おいしいを追求した昆虫食の一面が見られる点で、大きな一歩だと思います。
世界的に見ても昆虫食の市場は拡大傾向にあります。
戦後すぐの頃には、日本でアリのチョコレートが作られ、輸出されていたと言います。
アリは滋養強壮に良いという健康食という認識で、中国でも人気のようです。
日本でも輸入ものの昆虫食が多いように、海外の方が昆虫食のレパートリーは多いです。
市場規模が伸びることが予想されているように、今後は当面需要は増え続けるのかもしれません。
参考文献:昆虫食古今東西、信州人虫を食べる、昆虫食先進国ニッポン
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