2021年1月23日MNH株式会社の小澤尚弘取締役、NPO法人昆虫食普及ネットワークの内山昭一理事長をお招きして、昆虫食開発におけるコンセプトとその考え方についてセミたま代表の伊藤洋平がお話を伺いしました。
その中で、商品開発における5つの鉄則があることがわかりました。
今後、昆虫食開発を考えるみなさん、こちらの5点を念頭に置いたうえで取り組まれることをお勧めします。
もくじ
世の中の流れに乗っていること
いろいろな種類の昆虫食に取り組まれていらっしゃいますが、昆虫食にビジネスとして取り組む魅力は何だったのでしょうか。
元々がお菓子メーカーなので、新しいネタを探していました。雑誌で取り上げられたり、2013年の国際連合食糧農業機関(FAO)の報告書などで認知度が高まってきたことがあります。大きな潮流なので、タピオカのような一過性のものとは違うだろうということで、信じてやっていこうという博打みたいなものでした。
お菓子メーカーとしての土台があったからこそできたことですね。
調査したところ、当時は、国内でコオロギを養殖しているところはなく、海外だけでした。
どういった地域でコオロギは養殖されているのでしょうか。
タイやフランス、カナダなどでした。今は、カナダのエントモ社のコオロギを使っています。
数ある養殖企業の中で、エントモ社にしようと思った理由は何でしょうか。
それは、エントモ社だけがオーガニックで養殖を行っていたからです。それが1つ強みになるのではないかと思いました。いろいろなコンペティターが出てくるときに何だったら勝てるかを常に考えています。タイだと安く仕入れられるので、真似がしやすいと思い、エントモ社にしました。
エントモ社は昔からやっていて、北米のコオロギ関係は一手に引き受けています。今でもシェアは大きいと聞いています。
アメリカのトルティーヤチップスもそう。コオロギバーもエントモ。もともとは釣り餌の農家が食用に転用していたので、生産背景がしっかりしていて、食用に転換した会社です。
当時の海外の企業の反応はいかがでしたか?
日本は全く市場がないと見られていたため、かなり上から目線でした。北米、EUが市場としては先行していました。
ターゲットは誰か。どの地域を狙うか。
世の中の流れという点以外で昆虫食がいけると思ったのはどのような点でしょうか。
食品・飲料専門展示会のFOODEX JAPANに出た時の女性の反応が良かったことです。コオロギそのままのものを出していたのですが、食べて良いですかと聞くのは女性ばかりでした。男女のペアで来た人に、お勧めすると躊躇なく食べるのは女性。男性もそろそろっと食べる感じでした。それを見た時に、これはいけると思いましたた。というのも、消費をけん引するのは女性だからです。
昆虫食のイベントでもそうですね。女性の方が昆虫食については積極的です。
西日本の方が新しいものは消費行動が良いというのもわかりました。関東はバイヤーも含めて保守だと感じています。特に東京は。
それはなぜでしょうか。
東京は売り場が多く、お客さんが毎日変わります。一方、地方だとお客さんがいつも一緒なので、レイアウトやものを変えていかないと飽きられてしまいます。人が多いがゆえに変える必要がないというのが東京なのではないかと思います。
そういえば、昆虫食自動販売機も熊本が最初でしたね。
福岡は新しいものが入る場所と言われています。北の方は寒いし、考え方が固まってしまうのかもしれませn。昆虫食の文化は東北、関東以北が根強いんですけどね。これは、講演会やイベントなどでもそうです。日本の西の方は、昆虫食に興味を持って聞いてくれる、食べてくれます。一方で、東の方だと落ち着いて静かに聞いていただく形になったりしています。
静岡が平均値だというのもよく言われていることですね。
売れる秘訣は、どれだけ置いてもらえるか
昆虫食に対する流れが変わったなというのはどういったタイミングで感じましたか?
やはり無印良品のコオロギせんべいですね。コオロギをメーカーに持っていくとなると、絶対に嫌がられます。異物を入れるという抵抗感が大きかったです。そこで、最初は、自社の工場でコオロギを詰め合わせるという形にしました。
最初は工場にコオロギを持ち込むことはできなかったということですね。
その後、工場でコオロギパウダーを使って商品を作ってもらえるようになったのですが、その時に必ず聞かれるのが安全性だと思っていた。そのため、40~50万円かけて、成分分析を行いました。エビ、カニのアレルゲンの問題もクリアしないといけないということで、エビ、カニのタンパク質ではないが、似ているということは確かなので、そこまで調査しました。
フードテック官民協議会で、安全性など国としてしっかりやりましょうということになっています。今後は、ある程度しっかりした基準ができるかと思います。
最初のハードルがかなり高かったということですね。
商品を作ってからも同様でした。というのも、バイヤー側の抵抗も大きかったからです。バイヤーに紹介した時にまず言われたのが、クレームがきたらどうするかということでした。2018年、2019年の段階でこのようなことを言われています。当時もメディアは取り上げていました。しかし、まだまだという感じでした。
それが、無印良品のコオロギせんべいがきっかけで大きく変わったということですね。
認知度が高まっていくと、サンプルを頂戴という問い合わせは増えてきました。ただ、まだハードルがあって、スーパーのバイヤー側でNGになりました。やはり、クレームが来たらどうするというところで止まってしまうんですね。結局売れるのは、博物館、昆虫展ぐらいでした。2018年の国立科学博物館の大昆虫展で、はじめて売れたなといった感じでした。
信州は、昆虫食の伝統がありますが、お土産として扱いたいという声はないのでしょうか。
あまりないですね。長野の人に言わせると、昆虫を食べているのは、南の方の飯田のことだからといった認識になのだと思います。従来の形以外の昆虫食を受け入れにくいといった感じですね。
どういうシチュエーションで買うかという商品コンセプトづくり
いろいろなスナック菓子がある中で、柿の種をにした理由は何だったのでしょうか。
私たちが作っている昆虫食は、すべておつまみといっています。その理由の一つは、もともとアンジェリーナジョリーがコオロギとビールが一番だと言っていたことです。
おつまみは唯一お菓子の中でお酒を飲もうとしている人たちが購入するものです。お酒は、ストレスを発散する、楽しみたい、通常ではないことを日常で取り入れることになります。そうすると、財布のひもも緩み、購買行動が変わります。スナック菓子だとスーパーで100円以下で売っています。しかし、おつまみと言われた瞬間に財布のひもがゆるむ。場所と雰囲気ですべてが変わります。どう定義すると面白がって買ってくれるか、というのを考えて、おつまみにしました。
そして、おつまみの王様としてはやはり柿の種。ということで、柿の種にしました。ただ、柿の種にコオロギパウダーを練りこむまでには工場側の反対もあり、至りませんでした。そこで素焼きの柿の種に自社の工場で味付けをする形にしました。
そして、おつまみの王様としてはやはり柿の種。ということで、柿の種にしました。ただ、柿の種にコオロギパウダーを練りこむまでには工場側の反対もあり、至りませんでした。そこで素焼きの柿の種に自社の工場で味付けをする形にしました。
味付けもアヒージョ味、トムヤムクン味、タコス味と特徴的ですよね。
いわゆる柿の種の味にすると、柿の種としての勝負どころがなくなってしまいます。コオロギだから食べたいではななく、プラスアルファで買いたいという味にしました。柿の種の世界ではこの味付けは他にありません。10種類以上の味付けを考えました。
3種類食べてみましたが、アヒージョが食べやすいですね。トムヤムクンは辛みを後引く。酸味がもっとあった方が良い。タコスはサルサソースはコリアンダーが入っているので、本格的な感じがしました。
海外の昆虫食を輸入するというのは考えなかったんですか。
海外のものは、日本人向けではない味付けなんですよね。
どういった点が日本人向けではないのでしょうか。
日本のものは旨味が多いのが特徴です。東南アジアの味はスパイシーさで、スパイシーなことが味があるというのを感じられているようです。一方、日本は旨味、塩味がないと味がないと感じます。ここが違うんですね。
海外で売れるものは違うということでしょうか。
日本では、無印良品のコオロギせんべいというパワーワードがあるので、コオロギせんべいが一番売れています。一方で、香港のシティスーパーに昆虫食を出してるのですが、海外では柿の種が人気です。これは、日本っぽい食べ物が柿の種だからというのもあると思います。
コオロギの食材としての価値の向上のために
今後の昆虫食の課題や方向性はどういったものになるでしょうか。
どの昆虫食を取り上げているプレイヤーも、まだ昆虫食、コオロギが入ってますというのが主流です。コオロギだからこそ、という商品を作れるか、そこが次のステージだと思います。コオロギの粉が入っているからこそ、おいしい。食材としての価値を高めるところが大切ですね。
現状日本の人には、貧困がどうだとか言っても、なかなか響きません。SDGsの話が2020年後半ぐらいから急に伸びてきています。SDGsの象徴的な食べ物として昆虫食は良いと思いますが、おいしいがセットになるとより良いと思います。
もともと日本にはコオロギは、食べる文化はなかったんですよね。コオロギ以外で取り組むという予定はありますか?
現状ではコオロギだけで十分できると思っています。コオロギにもいろいろな種類があるので、食べ比べもしています。カナダはカマドコオロギ、ヨーロッパイエコオロギ、ジャマイカンコオロギなど、いろいろあります。
台湾大コオロギは肉質があって、旨味が濃厚ですね。
そういったコオロギの肉を楽しめるというのも良いですよね。エビに勝てるようなコオロギの品種があると良いと思います。また、コオロギの味については、あげている餌や、生育段階、コオロギの殺し方で変わるのではないかという話もあります。昆虫は死んでからの腐敗がは安く進むので、進まないうちにやった方がおいしいですね。
たとえば、カイコは糸をとるのが目的で、副産物として食べられていました。そのため、死んでから時間が経ったものが食べられていたため、臭みがありました。しかし、マユから取り出してすぐに食べるとおいしいんですね。昆虫は鮮度が大切です。昆虫は不飽和脂肪酸が多いので、特に参加しやすいです。
そういった点では国産で作った方が鮮度が良いと思います。
コオロギの中で一番おいしく食べる方法は何だと思いますか。
Bugmoさんがはコオロギ出汁をやっていますが、出汁は良いと思っています。グルタミン酸は昆布よりも多く、約3倍あると分析結果が出ました。旨味成分がとても多いです。
昆虫は神経伝達物質はグルタミン酸で伝達しています。人間は脳だけがグルタミン酸なのですが、昆虫は全身で、それが旨味につながってくるのだと思います。
最後に視聴者の方からのご質問はありますか?
会場:コオロギ柿の種に記載してあるの番号は何のことでしょう?
なんだと思いますか?ちなみに、日本は81です。
会場:電話番号ですか?
はい。商品をナンバリングをしようと思ったのですが、普通に1からでは面白くないということで、電話番号にしました。
会場:今回のコオロギ柿の種は昆虫食レベルが1になっていますが、他はどういったものなのでしょうか。
現状ではパウダーを利用したレベル1、コオロギそのままのレベル3のみで、今レベル2を開発中です。2021年3月にはご覧いただけるようになると思います。
3月、楽しみですね。みなさま、本日はどうもありがとうございました!
MNH株式会社についてより詳しく知りたい方は、小澤社長へのインタビューをこちらからどうぞ。