日本一流通している昆虫食を作ってます。株式会社MNH

多摩市に近い調布市にある株式会社MNHさんで昆虫食を作っているということで、小澤尚弘取締役社長にお話を伺いました。

お話を伺う中で、日本で最も流通している昆虫食を販売しているということがわかり、驚きました。

お笑い芸人かにゃの丸沢丸さんにインタビューいただきました。

地域商社というビジネスモデルでスタート

丸沢丸さん
お菓子の会社ですよね?そもそもなぜ昆虫食を始めることになったんですか?
小澤社長
もともとMNHはお菓子の会社としては作っていないんですね。ソーシャルビジネスという色合いが強いものでした。
日本は若い人が起業するのには厳しい環境だと考えています。何かを作ろうと思っても、資金が必要だが、その資金も銀行の融資が経験がない人には下りにくい。

そんな想いがあった中で、改めて見てみるとものを作っているところはたくさんありました。その作られているものを別の視点からとらえると、売れるものにできるのではないかというビジネスモデルを考えました。

丸沢丸さん
具体的にはどういうことでしょうか。
小澤社長
たとえば、スーパーで売られているお菓子があります。これは、視点を変えればお土産屋さんでも、雑貨屋さんでも売れるかもしれません。場所を変えれば価格も変えられます。そうすることで、差益をとって、関われる人を増やしていこうという考え方です。それを地域商社モデルといったりしています。
丸沢丸さん
普通は間に入る人を少なくしてコストをカットするところを、付加価値をつけて、逆に関われる人を増やしていく、雇用を増やしていくという考え方ですね。
小澤社長
扱う商品は雑貨でも肉でも魚でも良かったのですが、一番扱いやすいものというのがお菓子でした。お土産屋さんで見てみると、以前はキーホルダーなどの雑貨が中心だったものが、今は8割以上がお菓子になっています。また、お菓子は残らず、消費されるものというのも選んだ理由の1つです。
丸沢丸さん
自社で作られているんですか?
小澤社長
基本的にはOEMです。どこか専門のところに作っていただいて、卸をするというモデルです。ただ、最近はコミュニティ工場という自社のお菓子工場を作りました。

工場勤務がひきこもり経験者の支援へ

丸沢丸さん
コミュニティ工場というのはどういうものでしょうか。
小澤社長
ここでは、ひきこもり経験者などが働いています。ひきこもりの経験がある人は良くも悪くも一つのことに集中するのが得意なシングルタスクの人が多いんですね。しかし、今の日本の産業構造上マルチタスクを求められていることが多い。特に事務職はそうですね。
丸沢丸さん
芸人もマルチタスクが求められる時代です。
小澤社長
シングルタスクの人がマルチタスクの世界に行くと、合わなくて、ひきこもりになるということもあります。NPO法人育て上げネットや厚生労働省ののサポートステーションと連携して、その人たちが社会に戻るためのきっかけができないかということを考えていた際に、お菓子工場が良いのではないかという話になりました。
丸沢丸さん
コミュニティ工場の仕事の特徴はどういうものでしょうか。
小澤社長
工場では、その日に作成する個数が決まっています。一方、事務は終わりがありません。また、工場は自分の担う役割が明確で、そこが抜けると次に進めないという種類の仕事です。そういう点で、自身の貢献が目に見えるという特徴もあります。
丸沢丸さん
事務だと自分が何のためにやっているのかわかりにくい仕事もありますよね。
小澤社長
工場は完成品が決まっているので、そういった点でも目標が明確でわかりやすいです。
丸沢丸さん
達成感が目に見えてわかるということですね。

お土産という付加価値商品へ着目

小澤社長
工場の取り組みは2年前ぐらいからはじめたのですが、行政から補助金をもらっていません。そのため、ビジネス的に工場モデルでも売れるものを作らないならず、企画力が勝負になり、お土産という分野にいきつきました。冷静に考えてみていただければと思うんですが、お土産って高いと思いませんか。
丸沢丸さん
めちゃめちゃ高いと思います。
小澤社長
テーマパークで1000円で売っているクッキーがあります。その場所でしか売っていない、特別感や限定感があるから、同じクッキーでも付加価値がプラスされて、1000円でも買いたいとなるんですね。どこで何を売るかで変わるんです。これは誰かの真似ではできません。ゾンビスナックという商品を出していますが、これはみんなで楽しめるお菓子ということで、この企画力が大切になります。

社会的意義から昆虫食へ

丸沢丸さん
そんな中で、どうして昆虫食に取り組むことになったのでしょうか。
小澤社長
2016年頃から調査を始めましたが、その頃は誰もやっていない、もしくはまだまだ少ないものでした。ひきこもり経験者の人を受け入れたり、福祉作業所にも仕事をお願いしたりともともとソーシャルビジネスや社会的な意義も大切にしていました。。昆虫食は食糧問題などで社会的意義は十分にあるので、相性が良いと思いました。
丸沢丸さん
昆虫が好きだから始めたのだと思いました。
小澤社長
昆虫が好きだというよりは、新しい市場として、また社会的意義の面からやっても良いのではということで始めました。そこで、社員にコオロギフードを見せてみると、最初は「えー。」という反応だったのですが、コオロギはスーパーフードなんだということを伝えると、反応が変わりました。それで、これはいけると思いました。

コオロギ製品しか作らない理由は?

丸沢丸さん
コオロギ製品が多いですが、それ以外のものも予定はあるのでしょうか。
小澤社長
コオロギのみの予定です。というのも、現状では、圧倒的にコオロギの養殖が多いんです。また、食べやすさ、栄養価の高さなどもコオロギが先んじていると思います。当時はNASAが火星に行くときに必要なものとして、コオロギを挙げていました。アンジェリーナジョリーもコオロギとビールが良いと言っていました。そのため、ビジネスとして実施していくにはコオロギが良いと考えています。個人的にはミールワームが味わいがあっておいしいと思います。しかし、見た目が気持ち悪いのでハードルが高いと思い、コオロギにしました。
丸沢丸さん
そういった理由があったんですね。
小澤社長
タイの養殖をしているところなどを調査して、イメージをどう払しょくするかが非常に重要だと思いました。また、輸入品が多いので、高いのも課題です。価格の面からすぐには広がらないだろうと考え、ターゲットはファーストトライアルする、初心者向けから中級レベルまでと決めました。そのため、最初に食べてもらう食べやすいもの、もう一歩踏み込んで楽しめるものまでの商品開発だけをすることにした。
丸沢丸さん
食べやすいというのはどういうことでしょうか。パッケージがおしゃれだから、とっつきやすいというのもあるような気がします。
小澤社長
せんべいやスナック菓子にするといったものですね。アメリカだとトルティーヤやプロテインバーがありますが、日本人に合わせて作らないといけないのと、価格を抑える必要があります。コオロギパウダーを輸入すると100~200g入っているものが1000円以上します。最初にこれを買うのはかなりハードルが高いと思います。
丸沢丸さん
そうですね。それに、どう使うかもわかりません。
小澤社長
馴染んできたり、好きなら良いのですが、まずそのハードルを下げないといけないというところからスタートです。それに、日本人は国産が好きなので、日本で作っているというのもポイントが高いです。そこで、メイドインジャパンで食べやすいものに特化していこうと思いました。

昆虫食の課題は?

丸沢丸さん
昆虫食の課題は何でしょうか。
小澤社長
いかにコオロギの価格を下げるかが最大のポイントだと思います。現状では、国産の牛肉よりも高い状況です。国連などが言っている動物性タンパク質摂取のために肉から昆虫にシフトするというのは価格面では実現できない。肉の方が安いので、肉を食べればよいではないかとなってしまう。
丸沢丸さん
牛を育てるよりコオロギの方が農地が少なくて良い、飼料も少なくて済むというのは聞いたことがあります。
小澤社長
牛や豚の飼料はトウモロコシですが、アメリカやオーストラリアの巨大なの農地で農薬をまいて作っているので、効率が良く、生産コストの差があります。
丸沢丸さん
コオロギの需要が伸びてくれば、その差はちょっとずつ減ってくるのでしょうか。
小澤社長
そうだと思います。生産システムの部分が一番の課題ですね。

昆虫食を普及させるためには?

丸沢丸さん
昆虫食をやっていて良かったという点はありますか?
小澤社長
まだ市場性がないと感じています。昨年、無印良品がコオロギせんべいのプレスリリースを出したときに変わるなとは思いました。それまでは博物館や昆虫展しか売れませんでした。一般のスーパーには、クレームが来るのではないかなど、バイヤーから言われるような状態でした。虫は異物混入といったイメージが基本になっています。そんな中、無印良品が取り組んだため、やって良いんだという雰囲気になりました。今年になってから一気に問い合わせが増えました。小さい会社はムーブメントを作るのは難しいので、大手が動くことはとても重要。徐々に拡大していくと良いと思いますが、一過性のもので終わるかもしれません。
丸沢丸さん
どういう形で浸透を図るのが良いのでしょうか。
小澤社長
女性の方が抵抗感がないと感じています。いろいろな展示会などに出て、試食をどうぞとお勧めすると、女性の方が試食することが多いです。食べる時も、スプーンでがさっと食べるのは女性で、男性はそーっと1つだけ食べる(笑
丸沢丸さん
女性の方が食に対する探究心が高いということでしょうか。
小澤社長
男性は保守的だと考えています。同じ定食屋さんだといつも同じメニューを頼むのが男性。同じお店でも違うものを頼むのが女性。単純に食べてみたいという好奇心が高いのは女性だと思います。
丸沢丸さん
実は、僕も奥さんと仲良くなったきっかけが、昆虫食食べに行こうよということでした。セミ会も女性の方が多いイメージ。子どもが来るかと思ったら大人の女性の方が多い。
小澤社長
そういう意味では、まだ伸びるのではないかと思っています。

未開拓の市場を開いていこうと思った理由は?

丸沢丸さん
新たな商品を作る上で、工場を探すことが大変だということはよく聞きます。
小澤社長
大変なことが想定されたので、仕入れたもの栄養なども含めて成分分析しました。
丸沢丸さん
理詰めでいったんですね。
小澤社長
お客さんから何か言われても、こうですよと説明できることが大切になると思います。工場によっては、魚粉とコオロギの粉のどこが違うのか、コオロギも良いではないかと言ってくれるところもありました。また、万が一何かあった場合は、最終的な責任は自分たちがとるといったスタンスも持っていました。
丸沢丸さん
クリアしないといけないところがかなりあるんですね。
小澤社長
一度食べてもらって、意外とおいしいとか、大したことないと感じてもらうことが大切だと思っています。1回食べると変わると思います。商品にはおつまみと名前を付けているものもありますが、お酒を飲むときは嗜好が変わると思っています。飲みに行くぞという時から気が大きくなり、楽しみたいという思いが高まると思うので、昆虫食も合うと思いました。
丸沢丸さん
盛り上がりますしね。大手チェーンの居酒屋でイナゴの佃煮を出しているところもありました。
小澤社長
面白系でいくのか、おしゃれ系でいくのかという方向性の問題もありました。面白系は非常に得意なのですが、それだと罰ゲームになってしまいます。そうすると、社会的意義も消えてしまいます。
丸沢丸さん
価格の問題もかなり大きそうですね。
小澤社長
日本では肉類でも海外の安いものを買う人が多いし、農薬は良くないと思いつつ、わざわざオーガニックの方は買わないという人がまだまだ多いと思います。
丸沢丸さん
まずはニーズをつくる作業をする必要があるということですね。そんな大変な昆虫食をなぜやろうと思ったのでしょうか。
小澤社長
面白そうだったからですね。それまで誰もやっていない、やっている人が少ないというところでしょうか。
丸沢丸さん
パッケージを見ても楽しんでいるなというのを感じますね。
小澤社長
昆虫を好きでない人にも食べてもらいたいと思っています。牛肉好きだけど、牛も好きかというと、そうではないと思います。豚もそうですよね。昆虫が好きだから昆虫食が好きという人もいればそうでない人もいます。単純においしいと言ってもらえるようになると良いと考えています。コオロギ入りのものはかなり出てきているので、コオロギが入っているから買うではなく、コオロギだからこそ買うというものが出せると良いと思っています。

コオロギの食材としての活用の方向性

丸沢丸さん
コオロギはどういった食べ方がおいしいですか?
小澤社長
アミノ酸、グルタミン酸の量が多いので、出汁感が強いです。お好み焼きの粉に入れ過ぎかというぐらい入れましたが、めちゃくちゃおいしかったです。お好み焼きはぜひやっていただきたいです。
丸沢丸さん
昆虫の出汁はどういうものがおいしいのか気になります。
小澤社長
魚の養殖の餌としても開発が進んでいるので、魚がおいしくなるかもしれません。魚の餌も高騰していると聞いています。
丸沢丸さん
栄養価も高いわけですしね。
小澤社長
今は、コオロギを食べている養殖魚というのは売りにはならないと思います。でも、だいぶ変わってきたと思います。当たり前っぽい雰囲気になってきました。昆虫食という言葉を聞いて、最近流行ってるよねという反応になってきていると思います。
丸沢丸さん
何かと混ぜて食べるというものもありますか?
小澤社長
グラノーラは牛乳を入れると、ものすごいおいしいです。ヨーグルトと一緒もおいしいです。スタッフで昆虫嫌いな人も牛乳かけて食べてといったらおいしいと言っていました。グラノーラをやったのは、日常にどう入り込めるかを意識したからです。おつまみは嗜好品なので、日常の生活に入り込みづらいというのがあると思います。日常の中に入らないと一般化はしないので。
丸沢丸さん
コオロギはタンパク質が豊富なので、グラノーラのような主食、炭水化物に入れるとタンパク質も同時にとれますよね。
小澤社長
ただ、その観点だと大豆たんぱくの方が安いというのが実際です。ホエイプロテインの方が栄養価も高いし、安いので、その方が良いと思います。ビーフジャーキーも乾燥させるとたんぱく質含有量が60%ぐらいなので、そうでない切り口が必要だと考えています。
丸沢丸さん
カップラーメンなどもできたら良いなと思います。
小澤社長
おそらく、大手がやると思います。大手の研究部門が買っていくという例が増えています。大手は商品発売まで時間がかかるとは思いますが、時間の問題ではないでしょうか。大手とは違った部分で勝負しないといけないと考えています。そんな中でも、弊社の昆虫食は日本で一番売れているのではないでしょうか。ロピア全店、ユニディーやダイシンなどのホームセンター、マルエツプチなどで販売されています。
丸沢丸さん
そんな身近で買えるようになっているんですね。
小澤社長
日本で一番流通している昆虫食だと思います。